蒼風閑語

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科学と神秘のあいだ

菊池誠氏2010年の著作『科学と神秘のあいだ』(筑摩書房)を読了しました。

しばらく前に菊池氏とミュージシャン小峰公子さんとの対話形式による一冊『いちから聞きたい放射線のほんとう』(筑摩書房)を読み終えて、その余勢をかっての読了です。

本書も『いちから〜』と同様非常に親しみ易い「語りかけ口調」によって執筆されており、とにかく読者に対する敷居は低く低く設定されています。

テーマとしてセレクトされているのは似非科学ニセ科学疑似科学)、各種陰謀論、SF、ロックなど・・・と並べると取り留めが無いみたいですが、科学と神秘、真実と憶測、フィクションとノンフィクションといった「二律背反」とその止揚のさせ方という点で一本筋が通っています。

全体は大きく3つの部に分かれており、内訳はまず第1部が「君と僕のリアル」、続く第2部がインターミッション風の「テルミン」、そして第3部が「僕たちは折り合いをつける」という流れ。

巻頭に置かれた「はじめに ー この本を書いたわけ」の中で、著者はそのテーマをこんな風に明らかにしていました。

 “この本全体を通してのキーワードを挙げるなら「リアリティ」と「折り合い」になると思う。僕たちはどうしたって自分の体験からは逃れられない。その体験はもしかするとものすごくリアルなのに客観的事実と相容れないかもしれない。そんなとき、僕たちは「折り合い」をつけなくちゃならない。”

「リアル(現実=客観的)」に対する「リアリティ(現実感=主観的)」は、経験から来る「感覚」であったり「理想」であったり「仮説」であったり、時には蒙昧に起因する「誤解」であったり単なる「空想」であったり。

そこで「リアル」と「リアリティ」の間で何とか納得の出来る落としどころを見つけ、折り合いをつける為の作業が必要になる・・・そのためのツールが「科学」であり「音楽」でもある、という事なのでしょう。

ともあれ、本書の様に読者の予備知識をほとんど要求しない成書こそが、コトバ本来の意味で真に「啓蒙的」な一冊といえるのかも知れません。

科学と神秘のあいだ(双書Zero)

科学と神秘のあいだ(双書Zero)