蒼風閑語

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相対論的量子力学

白と黄色の装丁で有名な“新物理学シリーズ”の中から、西島和彦氏1973年の著作『相対論的量子力学』(培風館)を読了しました。

このシリーズは比較的高度なテーマを明快に解説した「良書」を擁する事で知られていますが、本書も看板名を裏切らない真に有益な一冊でした。

本書の明快さを生み出す大きなファクターの一つとなっているのが、取扱っているトピックのいい意味での“狭さ”でしょうか。

通常の量子力学から場の量子論への架橋という部分にマトを絞って、“場の量子化という手続きがなぜ必要で、それがどう有効なのか”を徹底的に明らかにしています。

巻頭の「はしがき」にある著者の言葉を借りれば、“場の量子論を入れなかったのは (中略) むしろ場の量子論なしにどこまで進めるか、またどのような限界にぶつかるかをはっきりさせたかったからである。”という事になるでしょうか。

場の量子論の必要性を読者に認識させるために、敢えて場の量子化を取り入れない事によって生じる不都合を明らかにしてみたという、「老婆心的」コンセプトに基づいて執筆された本当に“手厚い”テキストとも言えそうです。

全体の構成は第1章「Dirac方程式」から始まって、第2章「電磁場の量子論」、第3章「電磁場の量子論の応用」、第4章「散乱の一般論」に附録の「時間反転」という流れ。

決して“誰にとっても必要な本”という訳ではありませんが、これから場の量子論を学ぼう!という時には「座右の書」となる一冊だと思います。

相対論的量子力学 (新物理学シリーズ (13))

相対論的量子力学 (新物理学シリーズ (13))