蒼風閑語

ll_bluewind_llのひねもすのたりのたり

後白河院

井上靖氏の3作品を収めた“日本歴史文学館”の第8巻(講談社)から、『後白河院』を読了しました。

平信範(のぶのり)、藤原俊成の女(むすめ)、吉田経房(つねふさ)、藤原兼実(かねさね)という4人の人物によるモノローグという形式をとり、多面的・重層的に後白河院の人となりを浮き彫りにして行くという手法。

宮中に住まう人々の視点で語られる源氏や平家といった武人達の織りなす栄枯盛衰は、文字通り“つはものどもが夢のあと”といった風でもあり、無常観が一層際立っています。

反面、読み進む程に露わになって来るのが後白河院の何とも言えない存在感でしょうか。一見優柔不断ともとれる様な柔軟さでありながら、気が付けばいつの間にか全てを意のままにしている底の知れない強さ。

いつの時代も本当に力を持った真の「実力者」若しくは「権力者」というのは、実はこういった得体の知れない、捉えどころの無い、実態の見えにくい形で存在しているものなのかも知れません。

本書に併録されていた『風林火山』『淀どの日記』に比べると格段に読み難く、それゆえに格別の読み応えも感じられた作品でした。

それにしても、誕生月でもあった6月をこんな重厚な逸品で締め括る事が出来たのは、何とも得難い僥倖(ぎょうこう)だったと言って良いのでしょう。

・・・明日はもう「水無月の晦日」。1年の折り返し地点です。

風林火山;淀どの日記;後白河院 (日本歴史文学館)

風林火山;淀どの日記;後白河院 (日本歴史文学館)