いつも異国の空の下
先週の「東京国際ブックフェア」で買い求めた、石井好子さん1959年の著作『いつも異国の空の下』(河出文庫)を読了しました。
これはかつて六興出版というところから単行本『ふたりの恋人』として刊行されていたものを、改訂・改題の上で文庫化したものです。
フランスのシャンソンを日本に本格的に紹介した「草分け」的存在として知られる石井さんですが、もしかするとごく一般的には“料理本を書いた人”としての知名度の方が高かったりするのかも知れません。
・・・が、今回読み終えた本作は彼女の本業である音楽を軸にして、自らの半生を語った「自伝的エッセイ」とも言うべき1冊でした。
まだ戦後間もない昭和25年に音楽を学ぶために単身渡米し、シャンソン歌手となってからは活動の拠点をヨーロッパに置き、各地で大成功を納めて帰国するまでの8年間が僅か300ページ程の中にギュギュッと濃縮されています。
とにかく衒(てら)いのない真っ直ぐな文章が特徴で、ひとたび読み始めるとシンプルな言葉に独特のリズムが感じられて心地よい。どうやら彼女の文章には歌と同様に、人を引き付ける“不思議な強い力”があるみたいです。
ちなみに本書の旧版タイトルとなっていた『ふたりの恋人』は、彼女の代表的レパートリーの一つであるシャンソン「二人の恋人」のこんな件(くだり)から取られているそう。
“「私には二人の恋人がいる。それは私の故国とパリだ。」”
・・・もしも、私達が「ふたりの恋人」というタイトルを目にした時に何かしら“ピンとくる”位にこの曲がポピュラーであったなら、敢えて改題する必要すら無かったのかも知れませんね。