蒼風閑語

ll_bluewind_llのひねもすのたりのたり

鳥の月

朝晩の空気にはようやく仄かな涼味も感じ始めましたが、まだまだ日中は蒸し暑さが勝(まさ)って文字通り「残暑」を感じる毎日です。

何気にカレンダーを見ると旧暦はちょうど8月に入ったばかり。ちょうど良い頃合いなので今日は『百姓伝記』を引用/口語訳しておく事にしましょう。

 “ 八月中秋、白露の秋となる。諸鳥山を出て、里におもむく。大小の鷹も諸鳥につれて里にいづる。はやぶさは海辺・水辺へ出る鵆(ちどり)をとらんと心懸る。大鴻・小雁はじめて北より南にわたる。つばめ北にかへる。八月中よりかみなりならずと云。諸虫穴に入て、口をとぢ、水をふせぐ。朝がほ・むくげの花最中とさく。ひがん花さく。もず出てなくこゑやまず。猶早稲をかる。里々にそばの花さく。な・大こんの耕作をいそぐ。八月のおはり、せきれい渡る〈麦まき鳥、また稲あふせ鳥と云〉。 ”

 〔 「中秋」の旧暦8月、二十四節気にも「白露」とある様に、草木に白露(しらつゆ)の降りる「秋」が到来する。様々な鳥が山から里へ下りてくる。大小の鷹も他の鳥達につられるように下りてくる。ハヤブサは海辺や水辺に現れる千鳥を捕らえようと腐心する。大鴻や小雁が初めて北から南へと渡って行く。燕は北へと帰って行く。秋分より以降に雷は鳴らないとも言う。虫達は皆土に潜って巣穴の入口を塞ぎ、雨などによる浸水を防ぐ。アサガオムクゲの花が今を盛りと咲き渡り、ヒガンバナも花開く。モズがしきりと鳴く声が止まない。なおも早稲刈りに精を出す。方々の里にソバの花が咲き、菜っ葉や大根畑の中耕・除草を急ぐ。旧暦8月の終わりにはセキレイが渡る。〈「麦まき鳥」とか「稲あふせ鳥」と呼ばれたりもする。〉 〕

中ほどにある「大鴻」は大型の雁であるヒシクイの事でしょうか。もしかすると「おおとり」と読んでハクチョウを指すのかも知れません。また南に行くべき燕が「北にかへる」というのは釈然としませんが、これは単なる誤記の様な気もします。

最後の「稲あふせ鳥」については「あふせ」というのがよく判りませんでした。「風を起こしてあおる」意の「煽(あふ)つ」の変形なのか、それとももっと風流に「逢ふ瀬」に掛けたものなのか・・・残念ながらここも何とも、です。

(出典:岩波日本思想大系62.『近世科学思想 上巻』より)