蒼風閑語

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カワウソの祭り

明日3日の「節分」を過ぎれば明後日4日は「立春」ですから、暦の上では春が立って“寒が明ける”という事になります。

しかもカレンダーを見れば今日は旧暦だと既に一月八日。ちょうど良い頃合なのでお馴染みの『百姓伝記』から一月の項を引用・口語訳しておく事にしましょう。

 “正月節分のあくる日より立春といひて、目には見へねども春の気うごひて、東風そよめき、あつき氷もうすくなる。山里に鶯(うぐいす)初(はじめ)てなく。土のそこをほりて見るに、かゞまり居たる諸虫ども、はじめて身ぶるいをしてうごく。水底にすむもろもろの魚、氷の下にてうごきあそぶ。其節雨の降を得て、獺(かわうそ)魚祭(うおまつり)をするとなり。節分より二十日余りを過て、雨降にごり、氷となれば、諸国の大河へ鱒(ます)の魚・うぐひ・鱸(すずき)のぼる。千草もゑ出んとする。ねこつまをこふる。いろいろの虫土上に顕るゝ。此の比(ころ)は正月終也。”

 〔旧暦一月は節分の翌日から立春といって、目に見える程では無いけれども春の気配が兆(きざ)し始める。東寄りの風がそよぎ、厚く張っていた氷も次第に薄くなって来る。山里ではウグイスが初鳴きをする。地面の土を掘り返してみると、小さく縮こまっていた虫達が初めて身震いをして動き出す。水底に棲むいろんな魚が氷の下で活発に泳ぎ始める。この時期に雨が降るのを選んで、カワウソが捕らえた魚を並べる「魚祭り」をするという。節分から20日あまり過ぎて、雨が降り川の水が濁って氷となれば、全国各地の大きな河川にはマス・ウグイ・スズキが遡上する。若草は今にも萌え出でんとし、猫は恋の相手を探し始める。様々な虫が地上に現れてくる。この頃には旧暦一月も終わりを告げる。〕

とにかく色んなもの達が目を覚まして動き始める訳ですが、この時期にカワウソがお祭りって?・・・と思っていたら、ちゃんと辞書にも載っていました。

【かはうそ‐の‐まつり】 獺の祭り

陰暦一月中旬、獺が自分の捕った魚を並べておくことを、先祖の祭りをしていると見立てていう語。獺祭(だっさい)。春の季語。

小学館『古語大辞典』より抜粋)

おもしろいですねぇ・・・。何だかこのカワウソの習性についても、もう少し調べてみたい気がします。

(出典:岩波日本思想大系62.『近世科学思想 上巻』より)