蒼風閑語

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淀どの日記

1986年に講談社より刊行された“日本歴史文学館”なるシリーズの中から、井上靖氏の『淀どの日記』を読了しました。

織田信長に敗れた戦国時代の武将浅井長政と、その正室だったお市の方の間にもうけられた長女の茶々、次女のおはつ、三女の小督(こごう)という三姉妹の数奇な人生模様を、茶々(後の淀君)を中心に据えて描き切った大河小説です。

先だって『風林火山』を読んでいた時にも感じた事なのですが、同氏の作品は文章がとにかく簡潔で引き締まっており、惰性や筆の流れで“余計なコトバ”が無駄に書き連ねられた様なところが微塵もありません。

だからこそ短い作品でも濃密な読後感と共に深い感興が得られ、また長い作品であっても途中で緊張感が途切れる事無く一気に読み上げる事が出来るのでしょう。

それにしてもこの三姉妹をはじめとする登場人物の全てについて、それぞれのキャラクターの描かれ方はまさに「絶妙」の一言。

厳然たるフィクションを読んでいる筈なのに、まるで史実に基づいたドキュメンタリーを観ている様な気さえして来る、時代長編のお手本と言っても良い見事な作品ではないかと思います。

風林火山;淀どの日記;後白河院 (日本歴史文学館)

風林火山;淀どの日記;後白河院 (日本歴史文学館)