蒼風閑語

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「世間」とは何か

半月ばかり前に近くの古書店の均一台で買い求めておいた、阿部謹也氏1995年の著作『「世間」とは何か』(講談社現代新書)を読了しました。

著者は中世ヨーロッパ史に関する研究及び多数の著作でつとに有名ですが、本書のテーマとなっているのは日本社会における「世間」という概念の在り様(よう)と変遷です。

序章“「世間」とは何か”で、まずは現代における「世間」というコトバの意味するところを大まかに提示しておき、以降6つの章を使って、上代~近代に至る日本の文学作品をテキストとしながらその変遷を辿り本質へと迫って行きます。

本書では、まず第1章で『万葉集』『古今和歌集』に『今昔物語』、第2章は『方丈記』と『徒然草』、第3章では親鸞の『歎異抄』とその周辺を採り上げ、第4章で西鶴の人情噺、そして続く第5章は島崎藤村夏目漱石を、更に最後の第6章では永井荷風金子光晴といった面々が俎上に上げられています。

「社会」と「世間」の違いをシッカリと認識し、個人との関わりがより密接な「世間」というものの実体をよく理解したうえで、それをキチンと相対化して自己の意識に具えておく事の重要性。

そして、それを実践するための処方箋がギッシリと詰め込まれているのが本書なのだ・・・という事になるでしょうか。

巻末にズラリと列挙された「主要引用・参照文献」に残らず目を通してみたい、読む者をそんな気にもさせてしまう力を持った“稀有な一冊”ではないかと思います。

「世間」とは何か (講談社現代新書)

「世間」とは何か (講談社現代新書)