蒼風閑語

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ボルツマンの原子

昨年末に神保町の古書店で購入した、デイヴィッド・リンドリー著/松浦俊輔氏の訳による『ボルツマンの原子』(青土社)を読了しました。

2年程前に目を通したE.ブローダの『ボルツマン』(みすず書房)が、ボルツマンが構築した理論の解説にも少しばかり踏み込んでいたり、ボルツマンの死についての記述に結構な紙幅を割いていたのに対し、本書は当時の科学界に於けるボルツマンの“立ち位置”みたいなものを視点の中心に据えて書かれていた様に感じました。

つまり、既に評価の定まっている物理学者の功績を称えるだけの「偉人伝」スタイルに留まらない、研究者・教育者・生活者としてのボルツマンに改めて焦点を合わせた記述であるとも言えるのでしょう。

従って、ボルツマンが生きていた当時の科学界の雰囲気を味わいつつ、彼がその業績を生み出すに至った背景を辿りたい場合には、まさにうってつけの読み物ではないかと思います。

19世紀後半の物理学・化学などの世界で起こっていた事、そして科学者というある種特殊な立場にあった人々が織り成す、あまりにも生々しい人間模様。

本書は科学に題材を採ってはいましたが、本質的にはかなり普遍的なテーマを扱った“ヒューマン・ドキュメント”に他ならないのでは・・・という気がしています。

あらゆる「〇〇界」で起こりうるパワー・ゲーム。そのスリリングさゆえに哀しい結末がいつまでも胸に残るのでしょうか。

ボルツマンの原子―理論物理学の夜明け

ボルツマンの原子―理論物理学の夜明け