蒼風閑語

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〈不滅の恋人〉の探求

先にこの欄で入手の経緯だけお伝えしておいた、青木やよひさんの代表作『ベートーヴェン〈不滅の恋人〉の探求』(平凡社ライブラリー)を読了しました。

正直本書を読むまではこの「不滅の恋人」問題について、大作曲家の女性遍歴を彩るゴシップ・ネタの一つに過ぎないのだろう・・・位にしか思っていなかったのです。

それだけにバーナード・ローズ監督の映画『不滅の恋―ベートーヴェン』を観た時も、こんな瑣末なエピソードをよくぞここまで立派な娯楽作品に仕立てたものだと、感心もしていたのでした。

ところがこの本を読んでみるとさにあらず。この問題を専門とする研究者や研究書は世界中に数知れず、その中にあって青木さんとその著作は一頭地を抜いた存在感を放っている様なのです。

本書は、そんな著者のおよそ半世紀にも渡る研究の集大成とあって、最初から最後まで実に読み応えのある硬派な内容でした。

ベートーヴェンが残した手紙の謎を解くというのは、結局この「楽聖」の音楽と人生を徹底的に調べ上げ、その“人となり”を深く理解するという作業に外ならないのだということを、本作品は自ずから証明しています。

終章の最後に記されている以下の件(くだり)が、この労作の本質を見事に言い表しているのではないかと思いますので、引用しておくことに致しましょう。

“〈不滅の恋人〉問題を追求する意味とは、〈手紙〉の名宛人を割り出すという単なる謎解きにあるのではない。それは、生々(せいせい)発展するベートーヴェンの魂のドラマに、これまでとは別の仕方で光を当てることにあるのだと、いま私はあらためて感じている。”

ベートーヴェン〈不滅の恋人〉の探究―決定版 (平凡社ライブラリー あ 21-1)

ベートーヴェン〈不滅の恋人〉の探究―決定版 (平凡社ライブラリー あ 21-1)