蒼風閑語

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ハルさん

藤野恵美さん2007年の著作を2013年に文庫化した『ハルさん』(創元推理文庫)を読了しました。

早くに妻の瑠璃子さんと死別した人形作家のハルさんと一人娘のふうちゃんが織りなす、どこにでもありそうな小さな事件簿と父娘共々の成長譚。

主だった登場人物といえばこの二人と人形ギャラリーのオーナーである浪漫堂・・・という3人とあと幾らかのみ。至ってシンプルな設定が本書の読み易さを象徴している様です。

親子の成長譚らしく時系列に沿った5つの中編のオムニバスという形式をとっており、第一話で幼稚園児だったふうちゃんが第二話で小学4年生、第三話で中学2年生、第四話で高校3年生、第五話では大学1年生となって最後は結婚式のシーンで幕というプロット。

これら5つのエピソードがその結婚式当日のハルさん自身の回想という形で綴られて行くので、エンディングは一種独特の「幸福な哀感」に彩られて読んでいて何とも言えない心持ちになります。

娘を思う父の思い、父を思う娘の思い、そして夭折した母の思い・・・これらの全てが優しく、暖かく、柔らかい思い遣りに満ちており、だからこそそこには普遍的でかけがえの無い「強さ」がある。

ちょっとした推理小説風の仕掛けが物語のスパイス代わりとなってページを捲る手は止まらず、最後にはしっかりホロリとさせられてしまいます。「いいもの読んだなぁ」という爽快な読後感と共にしんみりとした情感も長く余韻を残す、見事な一冊でした。

ハルさん (創元推理文庫)

ハルさん (創元推理文庫)