蒼風閑語

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線型代数学

昨年の秋、神保町ブックフェスティバルの折に出版社ブースで買い求めた、佐武一郎氏の『線型代数学』(裳華房)を読了しました。

奥付を見ると、本書の第1版が『行列と行列式』として刊行されたのが1958年、増補の上で現行のタイトルに改題されたのが1974年という事ですから、初版から足掛け半世紀以上もの間増刷され続けているロング・セラーです。

記述は微細なところまで拾い上げて丹念に解き明かすというよりも、むしろ「線形性」の概念に沿ってどんどん対象を広げて行く感じ・・・といえば読中・読後に持った印象に一番近いかも知れません。

初めて目を通す本の筈なのにあまりそんな気がしないのは、既に評価が定まって多くの類書に影響を与えている定番書籍ならではの特徴。ボームの『量子論』やメラーの『相対性理論』(共にみすず書房)の読了時にも同じ様な感触があったのを記憶しています。

個人的には第Ⅲ章の「ベクトル空間」と第Ⅳ章「行列の標準化」、それに附録とされている「幾何学的説明」の章がとても面白く読めました。

ひとたび読み始めると容易に目を離せなくなる独特の「吸引力」みたいなものは、一般に「名著」と呼ばれている全ての書籍に共通するのだという事を、改めて認識させられた一冊と言えそうです。

線型代数学 (数学選書 (1))

線型代数学 (数学選書 (1))